全ての範囲にピントを合わせたパンフォーカスな写真は、絞りを絞ればいいと思われています。
しかし、絞りすぎると回折現象(いわゆる小絞りボケ)が生じ、ピントが甘くなります。特に、デジタル処理が可能になってきて、拡大表示でるので気になるようになりました。
そこで、今回、絞りすぎずに被写界深度をなるべく広げてパンフォーカス撮影をするために、過焦点距離を使った2つの撮影方法を紹介します。
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許容錯乱円の大きさに2つの考え方:ボケとパンフォーカス(1)
ピントが合っているように見える範囲・被写界深度:ボケとパンフォーカス(2)
被写界深度を計算してみた:ボケとパンフォーカス(3)
花と人と星にピントが合って見える:ボケとパンフォーカス(4)
過焦点距離を使って撮影してみました:ボケとパンフォーカス(5)
絞りすぎてボケた・回折現象に注意:ボケとパンフォーカス(6)
過焦点距離を使うと、絞り過ぎずに、近くから遠くまでピントくっきりにすることができます。そういえば、絵やイスラとはパンフォーカスなんですね。前ボケ・後ろボケのある絵はあまり見たことがありません。
過焦点距離とは
前回紹介しましたが、参考1)より、被写界近点や遠点の計算式は次のようになります。
f:焦点距離
S:合焦位置
ε:焦点深度 /2 ε=F*δ です。
δ:許容錯乱円
F:絞り値
H:過焦点距離 H=f2/ε です。
(S<H)
= ∞ (S≧H)
合焦位置(S)が大きくなっていくと、被写界遠点は大きくなります。そして、下の図のように、合焦位置が過焦点距離(H)になると、被写界遠点は無限遠になります。
過焦点距離(Hyperfocal length):後方被写界深度が無限遠になる一番近いピントの位置
わかりやすくするため、図はデフォルメされています。色によって、レンズを通過する時の口径が異なるようですが、実際は、焦点深度はかなり小さく、その差はほとんどありません。
過焦点距離=パンフォーカス距離
過焦点距離、わかりやすく言えば、パンフォーカス距離ですね。
上の式で、合焦位置=過焦点距離とすると、以下のようになります。つまり、過焦点距離にピントを合わせると、その半分の位置から無限遠までピントが合っているように見えるというわけです。
合焦位置=過焦点距離とすると
後方被写界深度 = ∞
過焦点距離は、以下の式で計算できます。参考2)のような計算サイトや、スマホのアプリもあります。
花と人と星にピントを合わせる(近景向)
過焦点距離を使った例を2つ示します。最初は、近景の人物や花などをはっきりさせたい場合です。
レンズの焦点距離は30mmで、絞りはF8、許容錯乱円を30μとして計算すると、この場合の過焦点距離は3.75mとなります。
下図の上のように、3mの距離にいる人物にピントを合わせた場合、ピントが合っているように見える範囲は、1.7mから15.0mまでの範囲です。
一方、図の中のように、過焦点距離(3.75m)の位置にピントを合わせた場合、半分の1.9mから無限遠までピントが合っているように見えます。
手前の花から、人物、後ろの木々、遠くの山や空の星まで一気に写し込むことができますね。
ただし、最近は拡大してみる機会が多いので、無限遠のピントはやや甘く感じます。なので、遠景より、近景の人物や花などをはっきりさせたい場合に使えそうです。
人物にピントを合わせるより、少し後ろにずらした方が、無限遠の背景まで幅広くピントが合ってみえるようになります。花と人と星を、同時に写し込むなんてことも可能ですね。
花と人と星にピントを合わせる(遠景向)
2つ目の例です。近景より、無限遠にある星や山々をはっきりさせたい場合に有効です。
上の例で、下図のように 無限遠にピントを合わせると、被写界近点は、過焦点距離の3.75mになります。
つまり、無限遠にピントを合わせると、過焦点距離から無限遠までピントが合って見えるということになります。
前景の花や人物にもピントが合っているようにするには、過焦点距離以上にするのがいいでしょう。
特に 無限遠にある星や山々をはっきりさせたい場合は、こちらのほうが使えそうです。
F値と過焦点距離
レンズごとの 過焦点距離を計算してみました。許容錯乱円(パンフォーカス距離)は一定値なので、焦点距離と絞りで決まります。
図のグラフで、横軸は絞りF値、縦軸は過焦点距離です。焦点距離が20mmから50mmまでの関係を示しています。赤線は、上のイラストで示した30mmの関係です。
焦点距離が50mmより大きいと、過焦点距離はかなり大きくなってしまいます。使えるのは、広角の場合でしょう。
グラフのA~Cの具体的な意味は、
A)上のイラストで示した位置です。
B)F8では、焦点距離20mm、28mm、30mm、35mm、50mmでそれぞれの過焦点距離は、1.7、3.3、3.75、5.1、10.4です。
C)20mmでF値16に絞れば、0.4m以上の全てにピントが合っているように見えます。
参考
2)パンフォーカス撮影とは:フルサイズ(α7RII)の許容錯乱円径を、33.22μとしています。
あとがき
過焦点距離を知っていると、より幅広い範囲にピントを合わせることができます。回折現象があるので、あまり絞りたくないところ。F8程度で利用するのがいいのでしょう。
さてさて上の例は、計算上の話です。過焦点距離を使うと、本当に近くから遠くまでピントがあっているように見えるのか、次回は実際に撮影しての話です。