前回は、許容錯乱円(ボケと識別できない最小の円)の話でした。
許容錯乱円はイメージセンサー上で想定する円にすぎません。なので、その大きさ自体を直接利用することはありませんね。
今回は、許容錯乱円の大きさから、より具体的に、ピントが合っているように見える範囲(被写界深度)について考えてみます。
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許容錯乱円
前回のおさらいです。下図のように、点光源の被写体を撮影した場合、青い線のように、ピントがずれた場合には、オレンジ色で示したぼやけた丸い円として写ります。
この円がイメージセンサー上にある錯乱円(さくらんえん)でしたね。そして、錯乱円が小さくなると、もはやボケとは認識できなくなります。この最小錯乱円のことを許容錯乱円といいます。
焦点深度と被写界深度
許容錯乱円とレンズに入る光線束の関係を図示すると、下図のようになります。
許容錯乱円に対応して、光軸上の焦点側のイメージセンサーの前後に、ピントが合っているように見える範囲ができます。これを焦点深度といいます。
一方、焦点深度に合わせて、被写体側にも、ピントが合っているように見える範囲ができます。これを被写界深度といいます。被写体側にありますが、被写"体"深度ではありません(笑)。
つまり、図の番号順に
①許容錯乱円の大きさ →
②焦点深度 →
③被写界深度の決定
という順になり、③となって初めて具体的な意味を持ってきます。
なお、あくまでも"ピントが合っているように見える範囲"であって、"ピントが合う範囲"ではありません。
いくら絞りを絞ってパンフォーカス的になっても、ピントが合っているのは合焦位置だけです。
赤色が、点光源の被写体にピントを合わせた場合。許容錯乱円の大きさに対応し、遠くは緑から近くの青までの位置で、ピントが合っているように見えることになります。
焦点深度(depth of focus):イメージセンサー側にある、ピントが合っているように見える範囲です。イメージセンサーの前後に、前方被写界深度と後方被写界深度があります。
被写界深度(depth of field):被写体側にある、ピントが合っているように見える範囲です。ピントを合わせた合焦位置の前後に、前方被写界深度と後方被写界深度があります。
焦点近点:イメージセンサー位置 - 前方焦点深度
焦点遠点:イメージセンサー位置 + 後方焦点深度
被写界近点:合焦位置 - 前方被写界深度
被写界遠点:合焦位置 + 後方被写界深度
合焦位置はレンズの主点からの距離になります。また、結像位置は焦点距離より小さくなることはなく、したがって、焦点近点の最小値は焦点距離になります。この時、被写体側の被写界遠点は無限大となります。
前ボケと後ろボケ
上の図のように、前方被写界深度は、後方より小さくなります。前側の方が被写体のピントが合う範囲が狭いため、前方のほうがボケやすくなります。
レンズを絞った場合
下は、上と同じ合焦位置と焦点距離で、絞りを絞り込んだ場合です。
ボケとは見えない許容錯乱円が同じとすると、図からわかるように、絞りを絞ってレンズの有効口径が小さくなると、被写界深度が深くなり、ピントが合っているように見える範囲が広くなります。
これが、絞りを絞ると、ピントが合っているように見える範囲が広く、パンフォーカス的になる理由です。
わかりやすくするため、図はデフォルメされています。色によって、レンズを通過する時の口径が異なるようですが、実際は、焦点深度はかなり小さく、その差はほとんどありません。例えば、レンズ直径を30mmとすると、許容錯乱円(30μ)は、その1/1000の大きさです。
参考
1)知っておきたい撮影レンズの基礎(東芝、pdf)
あとがき
許容錯乱円という大きさを、被写界深度という距離に変換できました。ボケとして認識できるかどうかの大きさが、ピントが合っているように見える範囲(被写界深度)を決めるわけですね。
次回は、レンズのF値や焦点距離を変えて、実際の被写界深度を計算してみます。