ルノアールやゴッホ、絵を見ればそれを描いた画家がわかるように、それぞれの作品は独特な個性を持っています。
写真の世界も同様で、かつての写真家もいろいろとオリジナルな表現手法を生み出しました。
それらの技法を学ぶことは、デジタル化が進んだ現代でもなにかと参考になります。
少なくとも、フィルム、現像と手間がかかる中で、工夫して前に進もうとしたその精神はくみ取るべきかもしれませんね。
今回は、写真家、マン・レイのソラリゼーションを模してみます。
ここでは、ライトルームという現像ソフトと市販のプリセットを使います。もちろん、ライトルームのそれぞれの項目を調整すれば、同様の効果が得られます。
ただし、このプリセットのように、トーンカーブの調整する場合は大変です。微妙なので、ぐちゃぐちゃになったり、時間をかけて調整したものの結局あまり良くなかったということもあります(笑)。
なので、マウスオーバーだけでおおよそのイメージが確認でき、一発変換できるプリセットは便利ですね。
プリセットはその名前や意図にこだわらず、マウスオーバーで色々試して、その写真に合うのか、そしてその中で一番ふさわしいのを選ぶのがポイントかなと思います。
なお、今回は、マン・レイのソラリゼーションを詳しく解析し再現したというわけではありません。ソラリゼーション → 階調反転ということで、現像段階でその方法を適用・応用したものです。
マン・レイとソラリゼーション
最初に、マン・レイについて簡単に紹介します。
マン・レイ(Man Ray、1890年 - 1976年)
米国生まれの芸術家である。芸術家というのは、写真以外にも絵画や彫刻などを手掛けたからである。光の人(Man Ray)と名乗ってはいるが、彼は幼少時のことを明らかにはしたがらず、その本名ははっきりしていないようだ。そのひとつは、エマニュエル・ラドニツキー (Emmanuel Rudnitsky)とされている。
写真家としては、ソラリゼーションなどの技法を駆使し、ポートレートなど、多種多様な写真作品を残している。
出典:Wilipedia
下の画像は、 Man Ray: Photographs(2001,ペーパーバック)の表紙です。ソラリゼーションにより、エッジが強調され、なんだかたくましささえ感じられます。
ソラリゼーション
フィルムの露光中にわざと光を当てることで、潜像の一部が過剰に露光され、その部分の画像が反転して現われる現象です。
マン・レイが写真の現像中に、助手で愛人のリー・ミラーが現像をしていた部屋のドアを誤って開けたことで生まれた写真が発端とする説があります。その後、マン・レイはこの手法をポートレートなどの制作に積極的に利用したことで知られています。
デジタルカメラとなった現在、ソラリゼーションはレンズをはずしてイメージセンサーに故意に光を当てると起きるのでしょうか。
しかし、そううまく狙ったとおりに光を当てることは難しいですね。そこで、デジタル映像の現像処理という段階でこの効果を出してみます。
ライトルームのプリセットで再現
今回、現像ソフト、ライトルーム(Lightroom Classic)で試してみました。
うまいぐあいに、市販のプリセット集の中にマン・レイのソラリゼーションを再現したというのがあり、それを利用してみます。
Lightroom&Photoshop プリセットコレクション 01 (インプレスムック)で、購入すると、14種類のプリセットがダウンロードできます。Kindle 版もあります。
そのひとつに、マン・レイのソラリゼーションの技法を再現したプリセットがあります。
マン・レイのソラリゼーションの技法を再現したプリセット
この補正の最大の特徴は、トーンカーブでソラリゼーションによる階調の反転を再現することです。エッジが強調される場合もあります。
もちろん写真によって効果が異なるので、ハイライトやシャドウなどの基本補正を追加で調整します。
それぞれの調整項目について具体的に示します。
基本補正
色表現は白黒モードです。プリセットでは、以下のように補正されます。
コントラストを保った標準的な調整とされています。
もちろん、写真によって、これらの項目はさらに調整します。 特に露光量の変化が一番大きく影響します。この調整で、場所によっては階調の反転でさえ変化する場合があります。
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トーンカーブ
トーンカーブはトーン(階調)変化をグラフにしたものです。横軸(入力)が補正前、縦軸(出力)が補正後です。各ポイントでは、横軸、縦軸の数値は輝度情報をもとに、0~255の数字で示されます。
このプリセットでは、下の図のように調整します。数字は、補正前→補正後を示します。X~Zの具体的な数値は購入してご確認ください(笑)。
もちろん写真に合わせて最初から自分でトーンカーブを調整しても階調反転ができます。しかし、このプリセットのカーブはなかなか秀逸で、自分で調整してもうまくいかない場合が多いですね。
■最明暗ポイントのグレーシフト ・一番暗いポイント(図の①)は、0 → X にあげます。 ・一番明るいポイント(図の④)は、255 → Y に下げます。
■ハイライトとシャドウの階調反転 ・シャドウのポイント(図の②)は、Z → 0 に下げます。 ・ハイライトのポイント(図の③)は、225 → 254 に上げます。 ・一方、真ん中の中間調は反転していない状態です。 |
白黒ミックス(B&W)
色別には、白黒ミックスを調整します。
濃くしたい色域の値を下げます。 プリセット(左)では、肌の色を明るくするため、オレンジをプラスにしています。
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その他
効果:粒子の適用量がプラス(30)とされ、粒子が粗くなっています。サイズは40です。フィルムの粒状性を再現したのでしょうが、ノイズが気になる場合は、適用量を下げます。
実際の調整例
実際の写真の現像で利用してみました。いずれもオリジナル(上)とプリセット適用(下)です。
明暗別色補正として、カラーグレーディングで、シャドウとハイライトに色をつけた場合もあります。
高岡古城公園のカモ
オリジナル画像(左)とプリセット適用後(右)です。
さらに基本補正と白黒ミックスを調整しました。一部反転しエッジが強調され、鳥の姿がはっきりしてきました。
高岡古城公園のモミジ
オリジナルです。
プリセット適用後です。木の幹のエッジが強調されています。基本補正の再調整と白黒ミックスのオレンジの調整で、モミジのグレイを残しています。
さらに、カラーグレーディングで、シャドウとハイライトに色をつけてみました。
環水公園のイルミネーション
オリジナルです。
プリセット適用後です。基本補正の再調整を行い、粒子の適用量を0にしています。
小さいイルミネーションの芯部と背景の一部が反転しています。
浴衣の女性
オリジナルです。
プリセット適用後です。基本補正の再調整を行い、粒子の適用量を0にしています。
白黒ミックスのオレンジの調整で、右の女性の顔にかかる影を調整しています。
マン・レイでは女性の顔にある影が強調されます。
一方、プリセットコレクションにある別のプリセット、Adolph de Meyer では、以下のように、明るくやわらかい、より自然な仕上がりになります。
舟川べりの桜
オリジナルです。
プリセット適用後です。基本補正の再調整とカラーグレーディングによりハイライトとシャドウを着色しています。また、粒子の適用量を0にしています。
明るい空は反転してますが、土手や桜の明暗はそのまま。空と桜の違いがはっきりし、曇天の空に白い花が咲いたようです。
こちらも舟川べり。オリジナルです。
プリセット適用後です。基本補正の再調整とカラーグレーディングによりハイライトとシャドウを着色しています。また、粒子の適用量を0にしています。
階調反転で、空の雲と桜の花、人物、特にコートの質感が目立つようになりました。
エアープランツ
オリジナルです。チランジアと100円ショップのカップです。
プリセット適用後です。基本補正の再調整とカラーグレーディングによりハイライトとシャドウを着色しています。また、粒子の適用量を0にしています。
取っ手のメタリック感が出ています。影のエッジが強調され。明るく発光しているようになりました。
赤いバラ
12月に咲いたドンファンという品種です。左はオリジナルです。
右は、プリセット適用後です。基本補正の再調整とカラーグレーディングによりハイライトとシャドウを着色しています。また、粒子の適用量を0にしています。
白いバラになりました。影が明るくなっています。
あとがき
今回のプリセット、階調反転というダイナミックな変化なので、似合う写真はそう多くはありません。どちらかと言うと、合う写真を探すほうが大変です。
今思えば、大したことがないと思って削除した写真の中のほうに、こういった現像処理が似合う写真が数多くあったかもしれませんね。