レンズを絵筆に、光を絵具に

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レンズを逆にして超マクロ:レンズの基礎(4)

レンズを前に出すと、より大きく写せることを紹介しました。しかし、前に繰り出すとはいっても、限界がありますね。

この場合、レンズを前後逆にして使うことにより、撮影倍率をさらに大きくすることが可能な場合があります。 今回は、35mmレンズ( Ai Nikkor 35mm F1.4S)を例に、そのメカニズムなどに迫ってみます。

 

 
リバースマクロとは:レンズを逆向けに
撮影倍率:今回は1.8倍ほど。
リバースの光路図:レトロフォーカスなので、主点はレンズの前に
通常の光路図:主点はレンズの後ろに
繰り出し量と撮影距離:フォーカスリングが効かない理由

 

関連

レンズの公式:レンズの基礎(1)

主点の位置は変えられる:レンズの基礎(2)

レンズを繰り出す:レンズの基礎(3)

レンズを逆にして超マクロ:レンズの基礎(4)

リバースで超マクロ撮影:レンズの基礎(5)

 

リバース・マクロとは

レンズを前後逆にして使うことにより、撮影倍率をかなり大きくすることが可能です。特に、広角系のレンズ(レトロフォーカスレンズ)を逆にして使うと、一般的には等倍以上、レンズによっては2倍以上に高めることが可能です。

マクロレンズよりも、大きな写真が撮れます。私のマクロ( SONY FE 90mm F2.8 Macro G OSS )の撮影倍率は等倍ですが、今回は、この2倍程度の倍率になります。 

 

欠点は、ピントの合う範囲が限定されることと、近づきすぎて暗くなることでしょうか。 

 

使えるレンズは

長い焦点距離のレンズではイメージセンサーに像を結ぶことができなくなるため、広角〜標準域のレンズが適し、広角レンズの方が撮影倍率が大きくなります。

特に、広角系は以前紹介したように、レトロフォーカスといって、レンズの後ろに主点があるので、逆にするとレンズの前に主点がくることになります。なので、大きく繰り出すことになっても、レンズは撮影範囲に収まります。

 

ピント合わせ

レンズを大きく繰り出すので、撮影距離が限定されます。無限遠にも合いません。カメラ自体を前後させてピントを合わせます。

フォーカスリングは機能しないとするサイトもありますが、機能していないのではなく、回しても撮影距離はほとんど変化しないだけです。

 

撮影倍率

α7RIIに35mmレンズ( Ai Nikkor 35mm F1.4S)を前後逆につけて、曲尺を撮ってみました。錆びてますが(笑)。左が通常で、右がヘリコイドアダプターで約1cmレンズを前に繰り出した場合です。
36mmのフルサイズの横幅に、それぞれ20mm、17mmほどが写っているのですから、撮影倍率は、それぞれ、約1.8倍、約2.1倍となりますね。接写リングなどを使ってレンズを前に出したほうが倍率は上がります。
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ちなみに、マクロレンズ( SONY FE 90mm F2.8 Macro G OSS )に、さらに25mmの接写リングををつけた場合の最短距離での撮影倍率は、約1.6倍でした。

 

リバースの光路図

実際のレンズ全体を1枚の凸レンズになると仮定して、リバースにした場合の光路図を図示してみました。

レトロフォーカスレンズなので、前後を逆にすると、主点はレンズの前にきます。マウントアダプターなどの長さを加えると、主点はずいぶん前の方に繰り出すことになります。

 

実測値として、撮影倍率( \frac{b}{a} )を1.8倍、イメージセンサーから被写体までの距離(撮影距離:a+b)を180mmを使用します。

以上より、a=64mm、b=116mmとなります。レンズの公式により、この場合の焦点距離は、f=41.3mmとなり、表示焦点距離の35mmより長くなります。また、レンズ繰り出し量(x=b-f)は、74.4mmとかなり大きいことなります。

また、フランジバック18mm、マウントアダプター28mm、リバースリング4mm、レンズ群の長さ62mmを合計すると、マウント面までは112mmとなります。実際はマウント面より、7mmほどレンズがでています。

よって、全体として以下のようになります。レンズは大きく繰り出された状態なので、ピントリングを回しても、撮影範囲にはほとんど変化がありません。

なお、下図では、小数点以下を四捨五入して表示しているので、合計が一致しない場合があります。

 

 

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レンズを前後逆につけた場合の光路図:主点に一枚の凸レンズがあるイメージです。繰り出し量は大きいのですが、レトロフォーカスレンズでは、レンズ群の前方に主点がくるので、大きく繰り出しても、レンズ全体は撮影距離内に収まります。

 

通常の光路図

レンズを前後逆にしない通常の場合で、撮影倍率が1.8倍になる光路図を考えてみます。上で求めた焦点距離(41.3mm)と繰り出し量(74.4mm)を使うので、上と同じ光路図になります。また、フランジバック18mm、マウントアダプター28mm、繰り出し量74mmを合計すると、マウント面までは120mmとなります。

1枚の凸レンズと仮定しているので、レンズを前後にしても変化がないわけです。ただし、主点がレンズの後ろにあるので、レンズ全体は撮影距離を超えて飛び出すことになり、実際の撮影は無理ですね。

 

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繰り出し量と撮影距離

前回と同じように、繰り出し量と撮影距離(撮影できる範囲)の関係を下の表とグラフに示します。通常の場合を想定していますが、1枚の凸レンズと仮定しているので、レンズを逆にした場合も同じです。

 

1)イは、無限遠の場合で、イメージセンサー距離は表示焦点距離となります。

2)ロは、最大に繰り出した場合です。

3)ハは、撮影倍率が等倍になるように繰り出した場合です。等倍で、撮影距離は最小になります。

4)ニは、撮影倍率が1.8倍になるように繰り出した場合です。

 

下のグラフから分かるように、レンズの繰り出し量が2cm以上では、繰り出し量を大きくすると撮影倍率は上がりますが、撮影できる範囲である撮影距離はほとんど変化がありません。これが、フォーカスリングが無効に感じる理由です。

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最後に

レンズを逆につける方法、マクロレンズを買わなくても超マクロ撮影ができるので、フィルムカメラ時代から利用されていたようです。しかし、どうして、大きく写せるのか、また、ピントリングが効きにくくなるのか、うまく説明したサイトは見つかりませんでした。。。

なお、今回の計算とか光路図は、私の推測なので間違っているかもしれませんので、ご了解を。