レンズを絵筆に、光を絵具に

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レンズを繰り出す:レンズの基礎(3)

レンズの基礎シリーズ、3回目です。近くの被写体を撮る時は像のできる位置が焦点距離からずれてくるので、ピントリングを回す時のように、レンズを前に繰り出します。

今回は、そのあたりについて、実際にレンズの公式を使って計算してみます。無限遠から非常にわずかレンズを繰り出すだけで、ピントの合う位置は大きく変わってきます。

 

 
レンズの繰り出し:近くを撮る時に
実際の繰り出し量はわずか:わずか1mmで無限大から1.3mほどへ
繰り出し量と撮影距離の関係:グラフにするとわかりやすい
接写リングでさらに繰り出す:ピントリングは効きにくくなります
最後に

 

関連

レンズの公式:レンズの基礎(1)

主点の位置は変えられる:レンズの基礎(2)

レンズを繰り出す:レンズの基礎(3)

レンズを逆にして超マクロ:レンズの基礎(4)

リバースで超マクロ撮影:レンズの基礎(5)

 

レンズの繰り出し

近くの被写体を撮る時は、図で示すように、レンズで作られる像A'B'は、焦点の後ろにできます。なので、焦点の位置にあるイメージセンサーからは、ずれてしまいます。

 

f:id:Paradisia:20190612073224j:plain

この場合、下の図のような、濃いめの水色のレンズに示すように、ピントリングを回してレンズを前方に繰り出す(移動する)ことで、イメージセンサー上に像を作ることができます。この長さをレンズの繰り出し量といいます。「量」とは言いますが、「長さ」ですね。

 

 x:b - f、レンズ繰り出し量(距離)

 

f:id:Paradisia:20190612074034j:plain

 

実際の繰り出し量はわずか

上の図では、繰り出し量はずいぶん大きいようですが、実際の繰り出し量はわずかです。ニコンの35mm(Ai-S NIKKOR 35mm F1.4)を例に、実際の繰り出し量を計算してみましょう。

 

繰り出し量が小さいうちは、f(表示焦点距離)とx(繰り出し量)を足してb(イメージセンサー距離)が求められ、レンズの公式より、a(被写体距離)が、そして撮影距離(L=a+b)が求められます。

下の表やグラフに示していますが、例えば、わずか0.1mm 繰り出しただけで、撮影距離は無限大から約1.3mへと短くなります。

 

次に、ピントリングを回し繰り出し量が最大となる最短撮影距離の場合を計算してみます。ニコンによると、このレンズの最短撮影距離は30cmで、最大撮影倍率は0.17倍です。最大撮影倍率とは、一番近くで撮影できる距離(最短撮影距離)において、イメージセンサーに写った像の大きさと、被写体の大きさの比率( \frac{b}{a} )を意味します 。

つまり、L = a+b = 30cm、 \frac{b}{a} = 0.17 で、これを解くと、a = 25.6 cm、b = 4.4 cm となります。レンズの公式より、実効焦点距離は 37.3 mmとなり、最短撮影距離では 6.3 mm、レンズが前に繰り出していることになります。これがこのレンズの最大繰り出し量です。

 

最短撮影距離に近くなると、f値が変化するので注意が必要ですね。このあたり、焦点距離やF値が変わる:マクロの不思議で紹介しています。下のグラフでは、繰り出し量が0.4cmあたりから実効f値を最大撮影倍率時の実効f値(37.3mm)に徐々に近づけ、補正しています。また、最大撮影倍率時以降は、このf値を使っています。

 

繰り出し量と撮影距離の関係 

繰り出し量と撮影距離(撮影できる範囲)の関係を、下の表とグラフに示します。

 

1)イは、無限遠の場合で、イメージセンサー距離は表示焦点距離となります。

2)ロは、0.1cm繰り出した場合。わずか 1mm 繰り出しただけで、撮影距離は無限大から、1.3m ほどと、一気に短くなります。

3)ハは、ピントリングで最大に繰り出した場合です。

 ニ~ホは接写リング使った場合で、下で説明しています。

 

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接写リングでさらに繰り出す

レンズとカメラの間に、接写リング(中間リング、エクステンションチューブ)をつけて、レンズをさらに繰り出すこともできます。レンズの最短撮影距離より近づいて、撮影倍率をあげることができます。

 

上の表では、

1)ニは、厚み1cmの接写リングをつけ、繰り出さない場合です。

2)ホは、厚み1cmの接写リングをつけ、ピントリングで最大に繰り出した場合です。

 

表から、接写リングをつけた場合、撮影倍率が上がることがわかります。

一方、グラフから分かるように、フォーカスリングを動かしても、レンズはニ~ホの範囲を動くだけなので、ピントの合う範囲(撮影距離)はほとんど変わりません。グラフの「接写リング」範囲ですね。撮影距離は無限遠にはならず、無限遠にピントは合わないこともわかります。

 

 

オーバーインフィニティ(over infinity)

オールドレンズによっては、∞を超えてピントリングが回ることがあります。この場合、∞の位置に合わせて遠距離の被写体を撮影すると、ピンボケの写真になるので、実物を見てピントを合わせる必要があります。

これは、オーバーインフィニティといって、マウントアダプターの誤差を考え、レンズの設計段階でピントリングに余裕を持たせてあることが主な原因です。上で示したように、無限遠近くでは、わずかな距離で大きく撮影距離が変化します。なので、アダプターがほんのわずかでも長いと、アンダーインフになってしまい、無限遠(遠景)が撮影できないことになります。それで、わざとオーバーインフ気味にしているわけです。

 

最後に

無限遠からだと、レンズを少し繰り出しただけで、撮影距離が大きく変化するのには驚きですね。そうなると、100mと200mの位置のピントの違いはかなり微妙のようですが。実際は、ピントが合っているように見える範囲(被写界深度)が広いので、問題はないのです。