前回、光自体に色はなく、ヒトが感じているだけと紹介しました。ヒトの錐体の感度曲線の特徴や脳の処理システムによって、色には不思議な事があるのです。
今回は、紫とマゼンタの謎について。
関連
光に色は無い、脳が感じているだけ:色の不思議(1)
波長のない色、マゼンタ:色の不思議(2)
再現できない色がある:色の不思議(3)
色についての問題
いきなりですが、色についての問題です。2問あります。
問題①
下図の自然光のスペクトルで示されるように、青(B)よりも波長の短い位置に紫(V)があります。一方、光の三原色や絵の具などでは、青に、長波長の赤を混ぜることによって、紫を表現できます。
青よりも短波長の光なのに、逆に波長の長い赤を混ぜて、紫ができる理由について、説明してください。
図1 光のスペクトル Wikipedia を改変。
問題②
下図2の光の3原色で示される、青と赤の混合で得られるマゼンタ(Magenta、紅紫色)は、上のスペクトルでどの位置にあるのか示してください。
図2 光の3原色
紫色の不思議
紫は青よりも短波長の光です。上の図では、青の外側(左の紫外線側)の位置になります。輝度を下げて青色を黒めにすることができても、波長のピークそのものの位置を移動して紫とすることはできません
しかし、光の三原色では青に、より長波長の赤を混ぜることによって表現できます。実際、絵の具などでもこのように混ぜて、紫色を作ります。例えば、(R,G,B)=(100,0,150)と青の輝度を下げて赤を少し混ぜてやると、紫色を作り出すことができます。
下図の色度図を見ても、青に赤を混ぜると、紫やマゼンタなどができることがわかります。
図3 色度図
RGBの比率で再現される色のうち、ヒトが肉眼で認識できる色範囲を示しています。RGBの3原色の合計を1とし、赤(R)の割合をx、緑(G)の割合をyで示し、x+y+z=1なので、青(z)の値も決まります。Wikipedia から。
周囲の数字は光の波長です。
青の外側に別の色を感じる理由
問題①の答
ヒトの網膜において、青より短波長側の光では、S錐体だけでなく赤色を感じるL錐体も反応するので、青に赤を混ぜた色として認識するのです。
下の図3.は等色関数です。実際にヒトで測定した結果で、S、M、Lは、ヒトのそれぞれの錐体細胞の感度に類似しています。ヒトは緑色を強く感じるため、M錐体(緑)を輝度とし、その最大値を1.0としています。
赤を感じるヒトの長波長側のL錐体は、青の範囲である短波長側でも反応することがわかります。
つまり、紫色の光は、L錐体とS錐体の両方を反応させることになります。そのため、青に赤を混ぜた色を感じるというのです。
図4 等色関数(実際のヒトの錐体の感度スペクトル)
ネットでは、青の外側に紫が見える理由として、「L錐体とS錐体の両方を反応させる」という段階でとまっている場合がほとんどです。
しかし、ここで問題があります。 「青に赤を混ぜた色」の部分です。単に青と赤を混ぜた場合、それらの波長の平均値である緑色となるはずです。
さらなる仕組みが必要ですが、その理由は、以下の「青+赤で、紫という新しい色を作っている」で説明しています。
マゼンタの謎
問題②の答
マゼンタ(Magenta)に対応する単色光はありません。よって、図1で示されるスペクトルには存在しません。
図3の色度図において、周囲の線は「スペクトル軌跡」とよばれ、 図2のスペクトルにある単色の波長を表しています。
一方、底辺にある直線部分は「純紫軌跡」とよばれ、紫や赤紫、およびその混色部分を表しています。この部分には波長表示がありません。
つまり、光の3原色で、赤と青の混色であるマゼンタ(Magenta)は、図1のスペクトルには存在しない色で、対応する単色光や波長は存在しません。もともと光自身に色はなく、脳が感じているだけなのですが、青や黄色には、対応する波長の自然光がありました。しかし、マゼンタは、物理学的に対応する光が存在しない、ヒトが作り出した色なんですね。
なお、光のスペクトルで、青の外側にピンク(Magenta)、赤の外側に赤紫を表示している場合がありますが、間違いですね。
青+赤で、マゼンタという新しい色を作っている
光の3原色や色度図で示されるように、SとMでCyan(水色)が、MとLでYellow(黄色)が作成されます。これは、下図5に示すように、それぞれの錐体で感じる単一色の光の波長を単純に平均化した場合と同じです。
一方、S+Lで単純に平均化すると、緑になります。しかし、ヒト場合、マゼンタ(赤紫)として感じます。
この理由として、赤と青の2つの波長を見た時、脳の処理としては、以下の2つの処理方法がありますが、ヒトの脳は、2)を選択しているのです2)。
1)赤と青の中間の色として、緑色と認識する。
2)赤と青の中間の色として、新しく色をつくる。
単に緑としたのでは、緑の単一光の場合と区別ができません。赤と青という両極に離れた色のパターンをも識別するため、別の新色、マゼンタを作ったようです。
図5 SML錐体での色覚
2つの単一色の光を見た場合、それらを平均化した波長が、実際に感じる色になります。ただし、S+Lを平均化すると緑になりますが、マゼンタ(赤紫)として感じます。この色、実は緑の補色になっています。合わせると白になる関係ですね。
波長の平均化のイメージ。横軸は波長(右側へ行くほど長波長)で、縦軸は輝度。例えば、1番上で示すように、青(S)と緑(M)の光からは、それらの波長(幅があります)を平均化した水色(Cyan)を感じます。
自然界のバラは青い色素を持っていません。なので、青や紫系の色は出せません。バラがうらやましがるような色が並んでますね。
参考
1)Wikipedia CIE 1931 色空間 :CIE1931表色系は、物理的な色と人間の知覚色の関係を定量的に定義した色空間です。
2)Magenta Ain't A Colour(マジェンタは色じゃない)
最後に
ヒトの色覚は不思議ですね。青より短波長の波長の光を色として感じるのは、エネルギーが強くて危険な紫外線を見ようと進化したのでしょうか。
また、赤と青の色素からなる花を単に平均化して緑としたのでは、あたりの草と紛れてしまいます(笑)。なので、新しい色を作り出すようになったのかもしれませんね。