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光に色は無い、脳が感じているだけ:色の不思議(1)

単なる記録にしろ、アートにしろ、写真は光を操ります。音がないと音楽が始まらないように、写真は光がないと成り立ちません。

ヒトは、光や色をどのように感じているのでしょうか。また、よく光の「明るさ」という表現が出てきますが、単位が不明確ですね。今回はそのあたりを。

 

 
ヒトは3色型色覚:RGBで全ての色を感じる
光に色は無い、脳が感じているだけ:色覚システムが感じているだけ
光の「明るさ」も心理的物理量:物理量ではありません

 

関連

光に色は無い、脳が感じているだけ:色の不思議(1)
波長のない色、マゼンタ:色の不思議(2)
再現できない色がある:色の不思議(3)

 

ヒトは3色型色覚

自然界にある可視光線は、図1に示すように、およそ400nmから800nmの波長の光からなる、連続的なアナログデータです。

一方、 意外と奥が深い:デジカメの画像処理(1)のシリーズで紹介したように、デジダルカメラと現像処理では、最終的にJPEGデータとして、可視光線をRGB(赤、緑、青)の3つの色の256階調のデータとして記録しています。図2に示すように、RGB、それぞれの単色光、又はその組合せとして、ほぼ全ての色を見ているのです。例えば、デイスプレイでは、黄色や水色の光(単色光)を発色しているわけではありませんね。

 

図1 光のスペクトル Wikipedia を改変。

 

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図2 光の3原色

( )の数値は、(R,G,B)の各色の明るさ(輝度)を256階調で示した数値。それぞれ最大値の単色又は混色としています。ちなみに、Whiteは白色という色ではなく、明るさが飽和した状態です。Wikipedia を改変。

 

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■3色型色覚

実は、ヒトも同じような仕組みなのです。ヒトの目にある網膜にある色を感じる錐体には3 種類あって、それぞれでRGBの3色を感じる3色型色覚(trichromacy)になっています。

 下図は、ヒトの錐体細胞のスペクトル感度(Wikipedia より)。最大感度を1とした相対的な感度分布を示しています。短波長 (S)、中波長 (M)、長波長 (L) を感知する3種類の錐体細胞があります。必ずしもRGBの色と対応しているわけだはないので、SMLとされています。

 

 

図3 ヒトの錐体細胞のスペクトル感度

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上の図3、錐体の説明でよくある図ですが、最大感度を1として、相対的な感度分布を示しているため、実際の感度とは異なります。

下の図4は等色関数です。実際にヒトで測定した結果です。SMLは、ヒトのそれぞれの錐体細胞の感度に類似しています。ヒトは緑色を強く感じるため、M錐体(緑)を輝度の基準とし、その最大値を1.0としています。

 

図4 等色関数(実際のヒトの錐体の感度スペクトル)

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デジタルカメラの記録やディスプレイの表示と同じように、3つの錐体細胞からの情報を脳で処理して、全ての光の色を感じているのです。

しかしながら、ヒトの錐体の感度曲線はMとLが近いことやそれぞれの感度強度が異なること、またオーバーラップしているため、単純なRGBの足し算ではありません。微妙な色表現が可能になります。

 

【動物の目】

ヒトの目は緑を感じる部分が多いと紹介しましたが、霊長類以外の哺乳類には、緑色のセンサーはなく、赤と青だけの2色型色覚(dichromacy)です。イヌやネコは、図2で示した緑や黄色、水色を感じることはないのです。緑多き自然の世界はどのように見えているんでしょうね。一方、鳥類は4色型となり、RGBに加えて、紫外線も感じることができます。紫外線が見えるなんて、日焼け対策にはいいかもしれませんね。

 

 

 

光に色はない、脳が感じているだけ

光の波長と色が関連することから、光に色があるように思えますが、光自体に色はありません。受け取る側で、例えば700nmの波長の光を赤色だと感じるように、波長を識別する色覚システムが、色として感じているだけなのです。

つまり色は物理量ではなく、心理的物理量なのです。絶対的、普遍的な値ではなく、知覚や感覚のように、人間の感覚によって左右される値なのですね。「心理」というと気分で変化するようなので、「感覚」のほうがぴったりくる感じですが。ちなみに、英語では、psychophysical value といいます。

 

心理的物理量  =  物理量 ☓ 心理量 
 

例えば、下図のように、波長 590nm の単色光を見ても、波長 550nm の光(緑)と 700nm の光(赤)の2つの光(混合光)を見ても、どちらもヒトには黄色に見え、区別することはできません。つまり、色(黄色)という物理量はなく、ヒトが感じているだけなのです。

 

図5 光の波長とヒトの目

ヒトは、光の波長(物理量)を、脳内で色(心理的物理量)に変換して感じています。赤と緑の光を見ても黄色と感じることができます。

 

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一面のキンポウゲ畑。ディスプレイの最小単位、サブピクセル(副画素)は、黄色ではなく、赤と緑の光を出しています。

 

 

光の「明るさ」も心理的物理量

光はエネルギーを持っており、その単位は、 J(ジュール)や W(ワット) といった物理量です。

一方、人間が感じる「明るさ」も色と同じく心理的な量(心理的物理量)なのです。下に示すように、光束、光度、輝度、照度は心理的物理量で、同じエネルギーの光でもヒトには波長によって感じる明るさが違い、エネルギーの量がそのまま明るさに比例しないのです。

 

単位時間あたりの光の放射エネルギーを放射束といいます。これは物理量であって、単位はワット(W)又はジュール/秒(J/s)です。

 

 一昔前までは、電球の明るさの単位はワットでしたが、最近のLED電球では、ルーメン(lm)になりました。

ルーメ ンとは、光束の単位で、こちらは心理的物理量です。光のうち、人間が感じるのは、およそ400nm~800nm の波長だけなので、その範囲にある光(放射束)のことを光束といいます。当然、その波長以外の光(放射束)はいくらあっても光束にはなりません。

ちなみに、ある面積に入ってくる光(光束)をその面積で割ったものが照度です。こちらも心理的物理量で、その単位はルックス(lx)で、ルーメン/m2(lm/m2)です。

 

 

参考

1)Wikipedia CIE 1931 色空間 :CIE1931表色系は、物理的な色と人間の知覚色の関係を定量的に定義した色空間です。

2)「色」は光にはなく、脳の中にある(ナショジオ)

 

 

最後に

自然光に波長はありますが、色はありません。ヒトの脳が色を定義しているだけなのですね。また、光の「明るさ」も光のエネルギー(物理量)そのものではなくて、人間が感じている物理量(心理的物理量)です。

色でさえ感覚的なものなので、形状などが加わる写真の「美しさ」はもっと感覚的なものでしょう。しかし、AIがディープラーニングで学習を重ねることで、ある程度は数値化されるかもしれませんね。