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「顔写真投稿」注意すべき、いわゆる「肖像権」

憲法では、「表現の自由」が認められてはいますが、どんな場合でも優先されるわけではありません。

特に、人の顔が写ってる写真を、ブログやSNSに投稿する時には、注意が必要ですね。

確認が取れればいいのですが、大勢の時は大変です。ぼかしを入れる場合もありますが、写真の雰囲気が変わったりして、表現したい意図が伝わりにくくなる場合もあります。

 

特に、桜の季節の今頃は、撮られる人・投稿される人の「肖像権」とやらが気になるわけです。写真だけでなく、花見の動画では、ちらっとでも人物が写っていないことはあり得ないでしょう。

悩ましいテーマですが、今回はそのあたりについてまとめてみました。

 

現時点での書籍やネットからの情報をまとめたもので、間違いや変更があるかもしれません。内容は修正・加筆される場合があります。書かれた内容を元にしたトラブルがあっても、その責任は負いかねますので、ご了解をお願いします。

 

そもそも「肖像権」の法的定義は存在しない

実は、「肖像権」は法律に明文化された定義はないのです。

しかし、「肖像権」の定義が無いからといって、他の全ての法律や権利に抵触しないわけではありません。法律の解釈、専門家でも意見が分かれるところですが、そういう場合、実際の裁判での判例が参考にされます。

 

いわゆる「肖像権」の判例

損害賠償請求事件の最高裁の判例( 平成17年11月10日、民集第59巻9号2428頁)があります。以下のように、「肖像権」という言葉は使ってはいませんが、それを意味するような権利、「人格的利益」と表現しています。わかりやすくするため、以下では、"いわゆる「肖像権」"とします1)

和歌山毒物カレー事件の報道にからんだ裁判で、いわゆる「肖像権」の話となると、いつも登場する判例です。逆に言えば、これ以降、これを超えるような具体的な判例が出ていないのでしょう。なお、下線は私が引いています。

 

裁判要旨

1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。

 

そのいわゆる「肖像権」には、以下の3つが含まれ、実際には、ケースバイケースで判断されます2)3)

 

1)みだりに撮影されない権利(撮影の拒絶)

2)撮影された写真をみだりに公表されない権利(公表の拒絶)

3)肖像の利用に対する本人の財産的利益を保護する権利(パブリシティ権)

 

1)の撮影の拒絶について。最近ではあらゆるところに防犯カメラがあったり、ドライブレコーダーをつけた車が増えたりしています。Google のストリートビューの撮影車も走り回っています。いくら撮影を拒絶していても、あらゆるところで撮影されていたりするわけです。これらが違反かどうかは、判例にある、撮影の目的や必要性、特に公共性や公共目的を合わせて判断されるのでしょう。

2)が今回の話題です。

3)タレントなどの有名人の氏名や肖像には、商品の販売促進などの財産的な価値があるので、それを本人が独占できる権利です。

 

 

 人物写真の公表:公共の場所などで偶然写った場合はOK

台風などのニュースでは、スカートを抑えて歩く女性が登場したりします。また、大相撲中継では、かなりはっきりと観客の顔が日本中どころか世界に放送されています。いずれも、いわゆる肖像権の確認を取っていないようです。

 

どのような場合、人物を撮影して投稿しても権利侵害とならないのでしょうか。具体的には、次のような場合とされています。 

 

・対象者が撮影と投稿を承諾している場合

 明示でも黙示でもかまいません。撮影だけでなく、投稿の承諾も必要です。「記者会見」や「スポーツ競技」などは、了解がなくても黙示的に了解したとみなされます5)

 

・人物が特定できない場合

 小さかったり、ボケていて判別できない場合です。かろうじて人物の特定が可能であったとしても、軽微であれば問題ないと考えられています5)。ボケが大きくても、本人なら、「あっ、おれだ」と分かる場合がありますが、これも問題にはなりません3)

 また、撮影後、モザイクを入れるなど画像を編集し、人物を特定できないようにした場合も問題ありません5)。グーグルストリートビューの例ですね。

 

・人物は特定できるが、心理的負担が少ない場合

 公共の場所で単に歩いている姿は、心理的負担を与えないので問題ありません5)

台風のニュースでのスカートを抑えて歩く女性の姿、心理的負担が大きいようですが(笑)。

 

  以下は東洋経済の記事から4)

一般的に、公共の場所や観光スポットなど、“誰かに撮影されることが予想できる場所”では、隠し撮りでもされないかぎり、肖像権は存在しないと考えられています。

 

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松川遊覧船

写真は富山市内を流れる松川の松川遊覧船。観光スポットで、橋の上から多くの人がカメラを向ける場所。桜がメインで、いわゆる肖像権は問題とならないようですが、桜フィルターでぼかしてみました。

 

 

参考にした書籍やサイト

1)最高裁判例:平成15(受)281 (最高裁判所・検索結果

2)ネット権利侵害対応の実務(新日本法規、2017)

3)第3版 インターネット新時代の法律実務Q&A(日本加除出版、2017)

4)知らないと後悔する「顔写真投稿」の基本常識:東洋経済(2017.2.20)

5)みずほ中央法律事務所

 

 

まとめ

 「公共の場所」や「観光スポット」では、人の顔が「偶然」写っていたとしても、いわゆる「肖像権」が問題となることはないようです。ただし、風景がメインであって、特定の人物を狙って撮ったようなのはダメですね。

できれば、明るめのレンズを使うか、絞りを開けて人の顔はぼかしたほうがいいでしょう。特定できないように、ぼかし加工すれば安心です。

ただし、ぼけているから、ぼかしたからといって問題がなくなるわけではありません。撮られる人、投稿されるの人の気持になって、法律だけでなく、マナーとしての気配りも必要ですね。