浮かぶように咲く花・・・、このシリーズ、ようやく撮影例が、少しですが(笑)。ティルトマウントでレンズを傾けると、そんな面白い写真が撮れます。
シャインプルーフの原理をイメージして、ピントが合う平面(ピント面)を自在に操るのです。
一つの平面上にあれば、近くと遠くの両方にピントを合わせることは簡単ですし、逆に大きくぼかすこともできます。
スケールの大きなフィールドで、ピント面を操るのは爽快です。ピントの合った位置が光る「ピーキング機能」で、一面の花が突然ふわっと光り出したり、光る面がダイナミックに回転したりするのです。
今回は、ティルトマウントを使った、そんな写真の撮り方について紹介します。
マウントアダプターが主役に
オートフォカスであろうが、ヘリコイドを使おうが、実は、撮る側が便利なだけ。出力結果、つまり、写しだされた写真からは、マウントアダプターの効果はわかりません。その意味ではアダプターは脇役に過ぎませんね。
しかし、ティルトマウントは違います。レンズとカメラだけからはできない写真が撮れる、面白い付加価値を生み出すという意味では、マウントアダプターは主役なんです。
この効果、マウントアダプターがない場合は、とりあえず、レンズをマウントから外して、手持ちでも試せます。主役はあなたの手に(笑)。ただし、光やゴミには注意ですね。
シャインプルーフの原理とは
シャインプルーフの原理(Scheimpflug principle)とは、下図に示すように、レンズ面を傾けると、撮像面、レンズ面、ピント面が1つの直線で交わるという原理です。
オーストリア軍のテオドル・シャインプルーフが発見した原理で、航空写真の歪みを補正するために使ったようです。
図では被写体面は示していませんが、ピント面を実際の被写体面に合わせれば(ピント面=被写体面)、被写体面上にある手前から奥の全てにピントを合わせることができます。
図は、Wikipedia(英文)を改変。レンズ面を傾けると、レンズ面、撮像面、ピント面の3つの平面が1つの直線で交わります。図は、平面図なので2次元的になり、「3つの平面上にある3本の直線は、ひとつの点で交わる」ことを示しています。通常の撮影は、撮像面とピント面は平行なので、その交点は無限遠になります。
ピントの合う平面を操る
通常の撮影でフォーカスリングを動かした場合、ピント面は前後にしか動きません。
しかし、レンズを傾けると、ピント面を倒したり斜めにしたりと、あらゆる方向に自在に操ることができます。
実際に撮る場合、シャインプルーフの原理で示される位置関係を思い浮かべながら、レンズを傾けて、ピントが合う平面(ピント面)を作り出し操ります。
カメラにピントの合う範囲に色がつく「ピーキング機能」があれば、ピントが合っている部分を確認しながら撮れるので便利です。
ただし、狭い範囲のテーブルフォトでは、あまりその効果は実感できません。できるだけ、広い場所で試したほうが効果的です。「ピーキング機能」で確認しながら、ダイナミックにピント面を回転させたりするのは、爽快です。
ピント面をクロスする撮り方
上の例は、レンズを下向きにし、ピント面と被写体面を同一面とする方法でした。
次は、逆に、レンズを被写体面に対して同じ方向ではなく、クロスするように傾けます。ピントが合う範囲は、直線(実際は幅のある帯)部分だけになり、その他は、豪快にボケてしまいます。
下図のように、今回も当然、シャインプルーフの原理が働いていいます。
図はWikipedia(英文)を改変。レンズを上に向け、被写体面に対して垂直方向に傾けることで、ピント面は被写体面にクロスします。その結果、実際に撮像面でピントが合うのは、2つの平面が交わる直線部分(図は平面なので点)だけになります。
上の図は平面図なので、下の図で立体的なイメージで。被写体のうち、2つの平面が交わる黄色の直線部分だけでピントが合います。
ピンク色のピント面がどうなっているかをイメージしながら撮ると、感覚がつかみやすいですね。
ただし、ピントの合う部分はコントロールできますが、どのようにボケるかは、ほとんどイメージできません。ファインダーをのぞいてのお楽しみ、ですね。
レンズを傾けることで作られるピント面(ピンク色)を、被写体面(緑色)にクロスさせることで、2つの平面が交わる黄色の直線部分(実際はある程度幅のある帯状)だけでピントが合います。図は上下関係を示していますが、左右に傾けると、ピントが合うのは縦のラインになります。
ティルトマウントアダプターの例
下の写真は、 LENSBABY ティルトトランスフォーマー。上側がレンズマウント(ニコンFマウント)面です。
2014年9月に購入しました。LENSBABY ティルトトランスフォーマーは、レンズとセットになっていたのを、マウントアダプターだけを利用しています。
可動部は球状の一部が回転する仕組みになっており、自由な角度で360度動きます。
下の写真は、α7II に、LENSBABY ティルトトランスフォーマーとニコンの50mm( AF-S NIKKOR 50mm f/1.2s )をつけた例です。カメラ面に対して、レンズが下に傾いているのがわかりますね。
別のKIPON製ティルトマウントには、可動部にグリスが塗ってあるのもあり、ベタつくのが気になります。
これで下向きには最大角度で、この程度で、下の写真に示したような効果が得られます。あまり大きく傾けると、ケラレが生じたり、周辺減光になります。可動部はきつくもなく、ゆるくもなく、ぐりぐりした感じで動きます。
テクニックにこだわりすぎないこと
こういう撮り方が生きるのは、とある平面にある対象物だけを目立たせることができるからです。その他の写したくないものは、たとえすぐ近くにあっても、ボケてわからなくなります。
また、写したい面とクロスするようにあおったりすることで、周囲のボケが強調され、全く異なった写真になります。
ただし、あまりテクニックにこだわりすぎると、違和感があって疲れる写真になります(笑)。テクはあくまで裏方として、全体として美しく仕上げるのがポイントですね。
撮影例
以下の例は、いずれも AF-S NIKKOR 50mm f/1.2sです。F値の小さい方がボケが大きく、効果が大きいですね。なお、レンズの傾け方により、極端なケラレが出た場合や周辺減光が大きい場合にはトリミングしています。
最初の2例は、レンズを前に傾けることで、ピント面を手前に広がる被写体面と平行にする方法です。一つの面上にある花などが浮かぶようになります。
レンズを前に傾けて、手前に広がるほどほどの高さの面にピントを合わせています。なので、手前から奥の花まで、ピントが合っています。一方、背の高い花や低い花は、近くでもボケています。2017年春、入善町で。
2014年の秋の桜並木。手前の葉っぱと、左右の並木の奥へと続く2つのラインが一つの平面(ピント面)になるようにしています。なんとか葉っぱを浮かばせようと、中腰で(笑)。
次の2例は、レンズを被写体面にクロスするように傾けることで、ピントの合う範囲は一つの直線上(帯状)だけになり、その他は大胆にボケます。
レンズを上に向け、ピント面を手前に立たせます。その結果、ピントが合うのは横の直線のみに。あふれる木漏れ日は踊るようになりました。2017年の秋の日、砺波市庄川町で。
レンズを横にティルトし、ピント面を垂直に立てることで、縦の線路にのみピントを合わせています。あえて、電車のこない風景を・・・というより、待てど暮らせど、なかなか電車は来ませんでした。。。待ちくたびれた2016年の夏の日でした。立山地方鉄道立山線、岩峅寺駅付近で。